
こんにちは、タイミーのプロダクトアナリティクスチームでプロダクトのデータ分析をしている松下です。 この記事は Timee Advent Calendar 2025 シリーズ 2 の22日目の記事です。
はじめに
私の趣味はランニングで、仕事はデータアナリストです。 ランニングウォッチをつけてランニングをしていると多くのデータが溜まっていきます。
GarminDB という、 Garmin Connectからデータをダウンロードしてパースするライブラリを見つけたので、データベースに入れて改めてデータ分析をしてみました。
すると仕事で大事にしていることが、そのままランニングにも当てはまることに気づきました。
- 見るべき指標を選ぶこと
- 平均ではなく分布を見ること
- データの向こう側にある情報を処理すること
どれもデータ分析の鉄則です。やっぱりそうだよな、と思いながら分析を進めていきました。
この記事では、ランニングデータの分析を通じて改めて実感した、データ分析で大事にすべきことについて書きます。

ランニングデータを分析してみた
最近のランニングウォッチはデータの宝庫です。 私はGarminのランニングウォッチを使っていますが、走るたびに以下のようなデータが溜まります。
距離、ペース、タイム 心拍数(平均、最大、ゾーン別の時間) ケイデンス(ピッチ) 気温 標高差 トレーニング効果、負荷 etc...
BigQueryに自動同期する仕組みを作った
GarminのデータをBigQueryに入れるために、以下のライブラリを活用しました。
AIの力を借りながらパイプラインを構築できました。データを集めるハードルは、AI時代にどんどん下がっています。
データで見えること①:見るべき指標を選ぶ
心拍数ゾーンでトレーニングする方法
ランニングには「心拍数」でトレーニングする方法があります。
心拍数ゾーンとは 心拍数を最大心拍数に対する割合で5段階に分けたもの。
- ゾーン1(50-60%):ウォーミングアップ、回復走
- ゾーン2(60-70%):脂肪燃焼、持久力向上。会話できるペース
- ゾーン3(70-80%):有酸素能力向上
- ゾーン4(80-90%):乳酸閾値付近、レースペースに近い
- ゾーン5(90-100%):最大努力、短時間のみ維持可能
「ゾーン2で長く走る」トレーニングは、体への負担を抑えながら持久力を高める方法として人気があります。Garminのウォッチも心拍数ゾーンをリアルタイムで表示してくれます。
でも、私はペースを見ることにしました。
心拍数トレーニングにしっくりこなかった理由はシンプルです。
レースで求めているのは「心拍数」ではなく「タイム」だから。
心拍数は体調、気温、睡眠、ストレスによって大きく変動します。同じゾーン2でも、調子が良い日は5:30/km、悪い日は6:30/kmになることがあります。これでは「今日どれくらい走れたか」がわかりません。
一方、ペース(タイム)は嘘をつきません。5:00/kmで10km走れたら、それは紛れもなく「5:00/kmで10km走れる体」ができているという証拠です。
これは仕事でも同じ
見るべきは「施策を打てる指標」であり、「結果に直結する指標」です。
DAU(デイリーアクティブユーザー)を追っていても、それだけでは何をすればいいかわかりません。一方で、「新規ユーザーの7日後継続率」なら、オンボーディング改善という施策につながります。
心拍数は「体の状態」を表すデータ。ペースは「結果」を表すデータ。アマチュアランナーの私にとって、追うべきは後者でした。
データで見えること②:平均の罠と比較の重要性
練習の平均ペースを比較してみた
「じゃあペースで何を見ればいいのか?」
まず、レース前3ヶ月の練習の平均ペースを比較してみました。
| レース | 練習の平均ペース | レース結果 |
|---|---|---|
| 熊本城マラソン2024 | 5:19/km | 3:17:50(4:38/km) |
| さいたまマラソン2025 | 5:08/km | 3:16:51(4:36/km)ベスト |
| つくばマラソン2025 | 6:27/km | 3:29:28(4:56/km) |
速く練習したほうが速いタイムで走れそうですが、ここはアナリストなら平均の罠が隠れていることに気がつくと思います。
平均の中身を見る
練習のペースを「速い(5分/km未満)」「中程度(5-6分/km)」「遅い(6分/km以上)」に分類して、その割合を見てみました。
| レース | レースペース | 速い練習(%) | 遅い練習(%) | 総距離 |
|---|---|---|---|---|
| さいたまマラソン2025 | 4:36/km | 38.6% | 2.8% | 598km |
| 熊本城マラソン2024 | 4:38/km | 30.8% | 0% | 844km |
| つくばマラソン2025 | 4:56/km | 26.2% | 29.6% | 906km |
発見
- ベストが出た時(さいたまマラソン、熊本城マラソン)は、速い練習の割合が30%以上、遅い練習は0-3%
- つくばマラソンは練習量906km(最大)だが、遅い練習が29.6%もあり、ベストは出なかった
平均だけ見ても「中身」がわからない
熊本城マラソン2024の練習平均ペースは5:19/km。一見、ゆっくり目に練習しているように見えます。
でも中身を見ると、速い練習30.8%、遅い練習0%。緩急をつけた質の高い練習をしていました。
つくばマラソン2025の平均ペースは6:27/km。こちらも「ゆっくり練習」に見えます。
でも中身は、速い練習26.2%、遅い練習29.6%。遅い練習が多すぎて、平均が下がっていただけでした。

平均だけ見ても「遅い練習が多いのか」「緩急をつけているのか」わからない。分布を見なければ意味がない。
これも仕事で経験済み
CVRの平均が上がっても、新規ユーザーだけ上がって既存が下がっていたら?
売上の平均単価が上がっても、高単価商品だけ売れて低単価商品が売れなくなっていたら?
平均だけを追うと、重要な変化を見落とします。
データだけでは見えないもの
身体性の重要さ
ランニングデータを分析して一番再確認したのは、身体性の重要さでした。
心拍数180の苦しさは、データで見る「180bpm」とは全く違う体験です。
データを見る人と、実際に経験している人では、同じ数字を見ても解釈が全く違う。
これは仕事のデータ分析でも同じです。
- 自社サービスを自分で使う - ユーザー体験を肌で感じる
- 生ログを500件くらい見てみる - データの「手触り」を知る
- ユーザーインタビューに同席する - 数字の向こう側にいる人を想像する
- 商談・カスタマーサポートに同行する - なぜ契約が決まる/決まらないかを体感する
データに現れる「前の段階」の手触りを知ることが、良い分析の前提条件だと思っています。
これは頭ではわかっていたことです。でも、自分のランニングデータを分析して、改めて強く実感しました。
おわりに AIには難しいこと
身体性は今のところAIが持つのは難しい領域です。
AIはデータを高速に処理し、パターンを見つけ、予測モデルを構築できます。SQLも書けるし、可視化もできる。正直、データを見る作業の多くはAIに代替されつつあります。
しかし、AIは自社サービスを使ったことがありません。ユーザーの不満を直接聞いたことがありません。
データの「手触り」を知っているかどうか。これが、AIと人間のデータアナリストを分ける決定的な違いになると思います。
データの手触りを大事にしながら、プロダクトに向き合いたい方。 ご興味があればぜひお話ししましょう!