Timee Product Team Blog

タイミー開発者ブログ

スプリントゴールに集中して、価値が駆動出来るチームになるために輪読会を実施しました

はじめに

こんにちは!今回は(@arus4869@yoshi_engineer_ )の2人で執筆しました! この記事では、私達のチームが『スプリントゴールで価値を駆動しよう』という書籍の輪読会をきっかけに、形骸化しがちだったスプリントゴールを「チームの羅針盤」として機能させ、スプリントの達成率を体感値で50%から80%に向上させた具体的な実践記録をご紹介します。

この記事は、特に以下のような課題を感じている方に読んでいただきたいです。

  • スプリントゴールが「タスクリスト」になりがちで、なぜやるのか(Why)やどんな価値が生まれるのか(Outcome)が曖昧になっている。
  • スクラムを実践中で、スプリントゴールの質に悩んでいる。
  • ステークホルダーやチームメンバーと機能の話はできても、「価値」についての会話がしづらい。

なぜこの本を選んだのか

私達のチームも、まさに上記のような課題に直面していました。

スクラム開発を長く続けているものの、いつしか「フィーチャーファクトリー」のようになり、スプリントゴールが単なるタスクリストになっていました。チームとしてやりたいことが多すぎて常にバックログを積みすぎる傾向があり、「レビューで何を学んだか」をアウトカムで語ることが難しく、アウトプットの話に終始しがちでした。

この「なんとなくこなすだけ」の状態を脱却したい。そんな思いで、スプリントゴールを考え直すヒントを与えてくれそうな本書を、輪読会のテーマとして選びました。

そもそもスプリントゴールとは何か?

スプリントゴールはなぜ設定されるのか知っていますか?私は説明することができませんでした。

スクラムガイドでは以下のように定義されています。

スプリントゴールはスプリントの唯⼀の⽬的である。スプリントゴールは開発者が確約するものだが、スプリントゴールを達成するために必要となる作業に対しては柔軟性をもたらす。スプリントゴールはまた、⼀貫性と集中を⽣み出し、スクラムチームに⼀致団結した作業を促すものでもある。 スプリントゴールは、スプリントプランニングで作成され、スプリントバックログに追加される。開発者がスプリントで作業するときには、スプリントゴールを念頭に置く。作業が予想と異なることが判明した場合は、スプリントゴールに影響を与えることがないように、プロダクトオーナーと交渉してスプリントバックログのスコープを調整する。

スプリントゴールはスプリントの唯一の目的

スプリントにおいて、この目標を達成することこそが大本命なわけです。

では、その重要性を深ぼっていきましょう。

スプリントゴールがなぜ必要なのか?

スプリントゴールの重要性、まず挙げられるのは「チームの思考をタスクベースの「アウトプット」から、ユーザーに提供する「アウトカム」へと転換させる」ことです。

チームは「ユーザーへの価値の提供」を本来の目的として行っています。実際のチームを稼働していく際に、いつの間にかタスクリストのみを指針として作業を進んでしまう可能性があります。

例えば、「ユーザー登録画面の実装」や「データベース登録処理」といったタスクの羅列だけでは、開発者はなぜその作業を行っているのか、その作業が最終的にどのようなユーザー価値に貢献するのかがチームメンバーが共通して理解しにくい場合があります。

スプリントゴールがあることで、ユーザーに届けたい価値,アウトカムがタスクと連結して、一つの具体的なインクリメントを生み出すという明確な意図が共有されます。

このようにチームは「タスクの進捗」だけでなく、ゴールへの貢献度を常に意識できるようになり、より良い意思決定と協調性を生み出す。

スプリントゴールの効能

スプリントゴールがチームに対してもたらす効能は他にもあります。それは「集中」「一貫性」です。

チームに明確なゴールがなければ、チームはプロダクトバックログアイテム(PBI)がスプリントバックログに含まれる場合、それぞれのPBIが独立した作業として捉えられ、チームがばらばらに作業するリスクがあります 。このような状況では、チームとしての協調性が生まれず、特定のPBIを担当する個人が孤立したり、作業の詰まりが発生したりする可能性があります 。

スプリントゴールは、これらのPBIを「なぜ我々はこれらを同時に進めるのか」という共通の目的に集約します。共通の目的を持つことで、チーム全員が同じ目標に向かって努力し、一体感を高めることができます。

これにより、チームメンバーは「ゴール達成のために誰かを助ける」という動機付けが生まれ、協力して問題を解決する姿勢が自然に育まれます。個々のタスクの完了ではなく、チーム全体のゴール達成に焦点を当てるという、スクラムの本質を体現します。

良いスプリントゴールを建てるために

ここではタスクベースのゴール設定状態ベースのゴール設定についてお話しします。タスクベースのゴールでは、チームメンバーが「自分のタスクが終わらなかった」という個人の反省に終始し、ネガティブな内省に陥りやすい可能性があります。

スプリントゴールを「モヤモヤが解消された状態」や「特定の価値が提供された状態」といった「状態」ベースで設定すると、チームはプレッシャーから解放され、より前向きな振り返りがしやすくなります。

また、ゴールが未達成であっても、チームは「なぜその状態に至らなかったのか」という根本的な原因を客観的に分析することができ、これを次のスプリントでの改善点として捉えることができます 。

このようなプロセスは、チームメンバー間の信頼関係を深め、失敗を学習の機会と捉える健全な文化を醸成します。スプリントゴールの達成に向けて互いに助け合う習慣は、チーム全体の協力体制を強化し、個々のモチベーションを維持する上で重要な役割を果たします 。

スプリントゴールを駆動して成功の鍵として活用していくために

  • スプリントゴールが単なるタスク管理ツールではなく、チームの集中力、柔軟性、そして価値創出を最大化するための不可欠な要素です
  • スプリントゴールを「タスクのリスト」から「成果を示す羅針盤」へと進化させることで、チームは「何をするか」から「何を成し遂げるか」へと意識を変えることができます。

何を実践したのか(輪読会での取り組み)

輪読会での学びを元に、私達は以下の3つの具体的なアクションをチームに導入しました。

1. スプリントゴールの「決め方」を合意形成のプロセスに変えた

これまで曖昧だったスプリントゴールの決め方を、チームで合意を形成するための明確なプロセスに変更しました。具体的には、スプリントプランニングで以下のステップを踏んでいます。

  1. 全員でスプリントゴール案を1つ考える: まず、POだけでなくチーム全員でスプリントゴール案を出します。
  2. 自信度の可視化と投票: そのスプリントゴール案に対して、達成できる自信度を各自が表明し、参考情報として投票を行います(多数決でスプリントゴールを決めるわけではありません)。
  3. 対話と議論: なぜその自信度なのか、なぜその案が良いと思うのかを全員で対話し、納得解を探ります。
  4. 「FOCUS」で最終チェック: 最後に、そのスプリントゴール案が良いゴールの特性(※)を満たしているか、チームでチェックし、最終決定します。

※FOCUSとは? 良いスプリントゴールの特性を示した頭字語。Fun(楽しい), Outcome-based(アウトカムベース), Collaborative(協調的), Ultimate(究極的), Singular(単一)の5つの観点。

このプロセスにより、スプリントゴールが「誰かが決めた目標」から「自分たちが合意した目標」に変わりました。

2. 「やること」を勇気をもって絞り込んだ

過去の私達は、スプリントゴールに集中できずに品質を低下させたり、ゴール自体を達成できない経験がありました。本から「同時に多くの作業に取り組むことは、協働を妨げ、価値提供を減少させる」という原則を学び、輪読会中にチームの合意として以下のルールを決めました。

「スプリントプランニングでスプリントバックログに入れるのは、スプリントゴール達成に直接貢献するPBIだけにする」

これにより、チームのエネルギーが分散することなく、全員がゴール達成に集中できるようになりました。

3. レビューで「データ」を語ることを始めた

価値(アウトカム)を意識するため、スプリントレビューで関連するプロダクトのダッシュボードを参加者で見ることから始めました。まだ道半ばですが、これにより会話が「何を作ったか(Output)」から「それによって何が変わりそうか(Outcome)」へと少しずつシフトするきっかけになっています。

やった結果どうだったか(輪読会の成果)

これらの取り組みの結果、チームには明確な変化が生まれました。

  • スプリントゴール達成率が向上: あくまで体感値ですが、スプリントゴールの達成率は約50%から80%へと向上しました。
  • プランニングの質が向上: 「このPBIはスプリントゴール達成にどう繋がるんだっけ?」という問いかけが自然に生まれ、バックログ選択の迷いが減少しました。
  • デイリースクラムの会話が変わった: 単なる進捗報告ではなく、「スプリントゴールを達成するために、今日は〇〇をしようと思う」といった、ゴールを意識した会話が中心になりました。

参加者の声

輪読会の参加者の声を抜粋します。

総合的に輪読会に参加して良かったという感想になりました。

  • 「不確実性への対処」における説明やそれに対するソリューションが大変学びになった。
  • 一人で読むとインプットだけで終わりがちですが、チームですぐに実践できるのが輪読会の良いところだと感じました。
  • FOCUSは一つのHOWに過ぎないと思いつつ、輪読会から具体的なアクションが生まれたのはとても良いな〜と思いました。
  • 価値提供を重視し、FOCUSの考え方でゴールを打ち立てることが本を通じて印象に残りました。

まとめ

今回の輪読会と実践を通して、私達は重要な学びと気づきを得ることができました。

経験からの学び: 良いスプリントゴールとは、優れた文章以上に、チームで『何に集中し、何を顧客に届けるのか』を合意するプロセスそのものでした。

気づき: チームが共通のゴールに集中することで初めて、日々の行動が価値ある「得点」に繋がるのだと気づきました。

この記事で紹介した私達の「スプリントゴールの決め方プロセス」が、その一助となれば幸いです。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。