1. はじめに
DRE(Data Reliability Engineering)グループ のつざきです。タイミーのデータエンジニアリング部で、BigQuery / dbt / Cloud Composer / Looker といったデータ基盤の開発・運用をしています。
DREチームでは 2026 年 2 月から、AWS が提唱する AI-DLC(AI-Driven Development Life Cycle)というワークフローを運用しています。きっかけは、 1 月末に AWS 主催の研修「Unicorn Gym」で3 日間 AI-DLC を体験したことでした。
AI-DLC 自体とタイミー全体への波及は同部の橋本さんが、Operations フェーズ(リリース後の検証)の独自構築については同じ DRE G の chanyou さんが、それぞれまとめています。
- 3日間のUnicorn Gymが1ヶ月で組織を変えた —— データで見るAI-DLC導入の波及効果(橋本さん)
- 「リリース後」に向き合うAI駆動開発の実践(chanyou さん)
本記事はこれらの続編的な位置づけで、「DREチーム が Inception と Construction フェーズで何を実装・運用しているか」に絞って書きます。
- 対象読者: AI-DLC を個人ではなく、チーム(モブ)で運用したい開発/データ基盤チーム
- この記事の目的: 公式の想定(単一プロジェクト/個人運用)を、複数リポジトリ・リモートモブ前提に翻訳した実装パターンを共有する
- 扱わないこと: Operations フェーズの詳細、全社展開の話、AI-DLC の一般解説
TL;DR
- DREチームは 2026 年 2 月から AI-DLC を運用中
- 実装: Workspace + CLAUDE.md 読み替え、Intent 単位の運用
- モブ: 1 日 3 ~ 4 時間のフルリモートモブ。狙いは「フロー効率(承認ゲートで止まらない)」「キーパーソンに頼らない(新基盤導入や新メンバー受け入れに効く)」「AI 出力の欠陥を集合知で減らす」の 3 つ
- 3 ヶ月の結果: Intent 完了が月 14〜17 件で推移、PR 数は維持、サイクルタイムに劇的な変化は見えず
- 記事の立ち位置: 公式に書かれていない実装の隙間(Mob、複数リポジトリ、パス読み替え等)を自分たちで翻訳した事例として記録
2. AI-DLC をざっくり
AI-DLC の全体像は既出記事に譲り、本記事で後から使う概念だけ押さえておきます。
本記事での用語の使い方
- Intent: 1 つのゴール(例: あるデータソースを BigQuery で使えるようにする)
- Unit: Intent を疎結合に分解した作業単位(DDD の Subdomain 相当。例: Terraform 追加、DAG 実装など)
- Ritual: モブでの儀式的な作業(後述の Mob Elaboration / Mob Programming / Mob Testing)
- Workspace: ドキュメントとルールを置く専用リポジトリ
フェーズと成果物の階層
AI-DLC には 3 つのフェーズがあります。
- Inception: 要件分析・設計
- Construction: 実装・テスト
- Operations: デプロイ・監視
3 つの Mob Ritual
各フェーズには対応する儀式(Ritual)が定義されています。
- Mob Elaboration(Inception): 要件分析・分解を全員で
- Mob Programming(Construction): 実装を全員で
- Mob Testing(Construction): テストを全員で
いずれも、公式推奨は「物理集合 + 共有スクリーン + ファシリテーター」です。
Human Oversight = Loss Function
AI-DLC は AI が実行主体、人間は各ステップで検証・承認する構造です。公式ペーパーの表現が印象的で:
"Each step serves as a strategic decision point where human oversight functions like a 'loss function' - catching and correcting errors early before they snowball downstream."
機械学習の損失関数のように、人間のレビューが早期にエラーを補正する、というメタファーです。後の章でモブワークの話をするときに効いてきます。
3. 公式ドキュメントに書かれていない実装ギャップ
chanyou さんの記事では、awslabs/aidlc-workflows リポジトリで Operations フェーズがプレースホルダになっている話が出てきます。実は Inception と Construction の側にも、公式の文書と実装の間にいくつかのギャップがあります。
awslabs/aidlc-workflows の構成
原典の awslabs/aidlc-workflows は MIT-0 ライセンスで公開されている、マークダウンのルールファイル群です。
aidlc-rules/
├── aws-aidlc-rules/
│ └── core-workflow.md # ワークフロー本体
└── aws-aidlc-rule-details/
├── common/ # 共通ルール
├── inception/ # Inception 詳細
├── construction/ # Construction 詳細
└── operations/ # プレースホルダ
ギャップ 1: ルール実装に Mob の記述がない
AI-DLC 公式ペーパーでは Mob Elaboration / Mob Programming / Mob Testing が中核の儀式として定義されています。しかし原典のルールファイル群を mob で grep してもヒットしません。実装部分は「個人と AI エージェントが 1 対 1 で対話しながら承認ゲートを通す」構造になっており、Mob は想定されていない書き方です。
ギャップ 2: 公式チュートリアルは個人開発の例
AWS 公式ブログの実践記事 Building with AI-DLC using Amazon Q Developer のサンプルは、単一 HTML ファイルの川渡りパズルを個人で作る例だけで、モブで回す実演は出てきません。
ギャップ 3: 複数リポジトリの扱いが明確でない
公式は単一プロジェクト前提です。データチームのように「1 つの機能を作るのに複数リポジトリにまたがる」ケースへの具体的な示唆はほぼありません。
理念と実装の翻訳が必要
つまり、公式ペーパーに書かれた「Mob ワーク」や「複数チームでの協調」を実際に動かすには、自分たちで翻訳する必要があります。DRE では、各ギャップに対応する形で次のように対処しています。
- ギャップ 1(Mob がルールにない) → モブでの意思決定を組み込み(章 6)
- ギャップ 2(単一 Intent 想定) → Workspace + CLAUDE.md 読み替え(章 4)
- ギャップ 3(複数リポジトリが薄い) → 複数リポジトリを 1 Intent でまとめる(章 5)
次章から具体に入ります。
4. DRE の実装: Workspace + CLAUDE.md 読み替え
AI-DLC を Claude Code で回すために、DRE では次の構成にしています。
全体像(先に結論)
- ルール階層:
aidlc-rules/(上流)→.claude/rules/(上書き)→CLAUDE.md(入口) - パス読み替え:
aidlc-docs/requirements.mdをaidlc-docs/intents/<YYYY-MM>/<intent_name>/inception/requirements.mdに読み替え - Intent 箱: Intent ごとに独立したディレクトリ(
intents/<YYYY-MM>/<intent_name>/) - 状態管理:
aidlc-state.mdに Status と Code Repositories を記録 - スキル化: Intent ライフサイクルを Claude Code のスキルで操作
以下、理由と詳細を順に見ていきます。
なぜこの構成なのか
awslabs のリポジトリは単一プロジェクト・単一 Intent 前提で書かれていて、1 つの aidlc-docs/ ディレクトリに成果物を蓄積する想定になっています。
一方で DRE は、Intent という単位で開発を進めていて、完了した Intent もそのまま保存しています(後述しますが 2026 年 3 月は 14 件の Intent が完了しました)。Intent ごとに独立したディレクトリが必要になるので、パス読み替えが不可欠です。
ルール階層(継承構造)
- aidlc-rules/: awslabs/aidlc-workflows の中身をそのまま取り込む。手動変更禁止、
/aidlc-rules-updateスキルで上流追従 - .claude/rules/: プロジェクト固有のルール。aidlc-rules のオーバーライドや追加ルールを置く
- CLAUDE.md: エントリポイント。プロジェクト概要とディレクトリ規則を最小限に記述
上流は変えない。プロジェクト固有の振る舞いは派生側で足す。オブジェクト指向の継承に近い発想です。
[入口] CLAUDE.md
├─ 参照: aidlc-rules/ # 上流(awslabs 同期、変更禁止)
└─ 参照: .claude/rules/ # 派生(DRE 固有、オーバーライド+追加)
パス読み替えの例
awslabs のルールは、成果物の置き場として aidlc-docs/ というパスを前提に書かれています。DRE ではこれを Intent ごとのディレクトリに読み替えます。
- 公式:
aidlc-docs/requirements.md - DRE:
aidlc-docs/intents/<YYYY-MM>/<intent_name>/inception/requirements.md
この読み替えは .claude/rules/aidlc-workflow.md に定義してあり、Claude Code が実行時に解釈します。ルール本体(aidlc-rules/)は触らずに、パスだけ派生側で書き換える構成です。
Intent ディレクトリの構造
1 つの Intent のディレクトリはこういう構造です。
aidlc-docs/intents/<YYYY-MM>/<intent_name>/
├── intent.md # Intent の目的・受け入れ基準
├── aidlc-state.md # Intent の状態管理
├── audit.md # 監査ログ
├── inception/
│ ├── requirements.md
│ ├── stories.md
│ └── ...
└── construction/
└── <unit_name>/
├── functional-design.md
├── code-generation.md
└── ...
aidlc-state.md のカスタマイズ
Intent の進捗追跡に使う aidlc-state.md は、公式テンプレートをベースに少し拡張しています。
- Status:
OPEN / SUSPEND / CLOSEDの 3 値を追加 - Assignee: 担当者
- Code Repositories: 複数のコードリポジトリのブランチ状態を記録
この Code Repositories セクションが次の章(複数リポジトリ運用)の鍵になります。
スキル化
Intent のライフサイクル管理は Claude Code のスキルとして定義しています。
/aidlc-intent-start: 新規 Intent 開始/aidlc-intent-continue: 既存 Intent の再開/aidlc-intent-save: 作業内容を PR 化してマージ/aidlc-rules-update: 上流(awslabs)への追従
chanyou さんの記事では /inception のように AI-DLC のワークフローそのものを呼び出すスキルが紹介されています。一方、DRE では「Intent というライフサイクルの入れ物」をスキル側で担う構成にしています。どちらも awslabs のルールに乗りつつ、スキルで扱う粒度が違う、という関係です。
5. 複数リポジトリを 1 Intent でまとめる
DRE のようなデータ基盤チームでは、1 つの機能を作るのに複数のリポジトリが絡みます。
典型的なワーク
例えば「ある外部 SaaS のデータを BigQuery に自動転送するパイプラインを構築する」といった Intent だと、以下のようなリポジトリにまたがる変更が必要になります。
- GCP Terraform リポジトリ: IAM やデータセットの定義
- Composer インフラリポジトリ: Cloud Composer や Secret Manager の Terraform
- Composer DAG リポジトリ: Cloud Run Job と Airflow DAG のコード
- dbt リポジトリ: staging モデル
これを 1 つの Intent としてまとめます。まず Inception フェーズで全体の要件・設計を固め、その後 Construction フェーズで各リポジトリに Unit を切って進めます。例えば DRE の 2026 年 2 月に動かしたあるパイプライン構築 Intent では、4 ユニット・60 ドキュメント・6 PR で完了しました(規模感の一例として)。
ブランチ戦略の 2 階建て
ドキュメントとコードで別々のブランチ戦略を使い分けています。
- Workspace リポ:
session/<intent_name>/<hex>という短命ブランチ。スキル呼び出し単位で切って都度 main にマージ - コードリポ:
feature/<intent_name>という長命ブランチ。Intent が完了するまで維持
Workspace 側はドキュメントの進捗を小さくマージして積み上げ、コードリポ側は実装が揃ったタイミングで main に入れる、という二層構造です。
aidlc-state.md に Code Repositories を記録
1 つの Intent が複数リポジトリに触るので、どのリポのどのブランチで作業しているかを aidlc-state.md に記録しておきます。
## Code Repositories - <dbt-repo> (feature/<intent_name>) - <composer-dag-repo> (feature/<intent_name>) - <composer-infra-repo> (feature/<intent_name>) - <gcp-terraform-repo> (feature/<intent_name>)
Intent を再開するときも、Claude Code がどのブランチをチェックアウトすればよいか即判断できます。
横断ドキュメントとして蓄積される
Inception で作る requirements.md や application-design.md は、複数リポジトリにまたがる機能の「横断的な設計書」になります。公式ペーパーではこうした成果物を "semantically rich context memory" と呼んでいて、AI がライフサイクル全体で参照する知識として機能します。
「1 機能 = 複数リポジトリ」というデータチーム特有の性質と、AI-DLC のコンテキストメモリの思想が、意外とうまくかみ合った部分です。
並列 Unit と audit.md 分散
モブとは別に、1 つの Intent の中で独立した複数 Unit を並列処理で進めるケースもあります。これは、Worktree で複数の Claude Code Agent を同時起動する方式です。このとき地味に困ったのが audit.md の Git コンフリクトです。並列の Agent が 1 つの audit.md に書き込もうとして衝突します。
対策として、audit.md は Intent レベルのマイルストーンのみ記録する役割に限定し、Unit 内の詳細ログは construction/<unit>/audit.md に分散する運用にしました。このルールは .claude/rules/parallel-unit-audit.md に定義しています。
6. モブでの意思決定: なぜモブにしたか
DREチームではメンバー 5〜6 名でモブワークを組み、1 日 3 ~ 4 時間をこれに充てています。全員フルリモートのため、公式ペーパー推奨の「物理集合 + 共有スクリーン」ではなく、Google Meet を接続して画面共有しながら進めています。本章では「なぜモブにしたか」と「どう使い分けているか」を DRE 視点で書きます。
3 つの狙い
モブを採用する狙いは、マーク・パール『モブプログラミング・ベストプラクティス』で挙げられている利点と重なります。特に以下の 3 つが今の DRE に効いています。
フロー効率(Loss function を強化する)
章 2 で触れた通り、AI-DLC の各ステップには人間の検証・承認ゲートがあります("human oversight functions like a 'loss function'")。この承認が詰まるとフロー全体が止まる構造です。
AI の確認質問(clarifying questions)に即答できる人がその場にいないと、承認ゲートで数時間〜半日止まることもあります。Intent 単位で開発を進める AI-DLC では、並行して複数の Intent を抱えるより、少数に集中する方がリードタイムが短くなります。
少人数のDREチームでモブをやると、WIP は 1〜2 Intent に絞られ、意思決定の待ち時間がほぼゼロになります。モブは AI-DLC の Loss function を強化する実装とも言えます。ただし、外部チームへの依存がある場合はこの限りではなく、PR レビュー待ちや情報提供待ちになることはあります。
キーパーソンに頼らない
Cloud Composer の統合や TROCCO から dlt への移行など、DRE は新しい基盤への切り替えを多く抱えています。こうした新基盤は「誰か一人だけが仕組みを分かっている」状態になりがちで、障害対応や次の意思決定がその 1 人に依存するリスクがあります。
モブで設計判断を進めると、全員が同時に基盤の意図を理解していきます。ドキュメントで読むのと、設計を議論しながら作るのとでは、後の理解度の深さが違います。
加えて、Intent の議論は Claude Code の audit.md に自然と記録されていくので、後から加入したメンバーが「なぜこの設計にしたか」を追えるようになります。口頭の議論を議事録に起こす手間が、AI-DLC の運用中に自動で払われる形です。
AI の出力の欠陥を減らす
モブで AI の出力をその場でレビューすると、一人では見逃しがちな欠陥が減ります。厳密に比較計測したわけではないのですが、集合知がうまく効いている実感はあります。
AI の提案に対して「そこは業務仕様的にこう違う」「その構成だと監視が弱くなる」「別の選択肢の方が運用が楽」といった指摘が即座に入るので、Intent 完了後に気づく修正が減っていると感じます。
使い分け: 全員モブ / 2 分割 / 個人
タスクの性質に応じて、モブの粒度を変えています。
| 粒度 | 想定シーン |
|---|---|
| 全員モブ(チーム全員) | Intent の Inception、新基盤の設計判断、障害対応 |
| 2 分割モブ(2 ~ 3 人 × 2) | 複数 Unit を並列で進められる Construction |
| 個人ワーク | 既知パターンの実装、軽微なドキュメント整備 |
判断基準は「不確実性」と「依存関係」です。不確実性が高いものは全員モブ。独立した Unit に切れるなら 2 分割。どちらも低い軽微な作業は個人。
公式ペーパーでも Mob Elaboration(Inception 相当)は必須、Mob Programming(Construction 相当)は分岐可能、と書き分けられていて、DRE の使い分けもほぼこの原則通りです。
リモートモブの実装と未解決の課題
公式ペーパーが想定するモブは「物理集合 + 共有スクリーン + ファシリテーター」ですが、DRE は全員フルリモートなので、ここを読み替える必要がありました。現在の構成は Google Meet + 画面共有 + 各メンバーのローカルエディタ(VS Code / Zed / Vim など人により様々)+ Claude Code です。
タイピスト交代
タイピスト交代は時間交代式(30 分サイクル)で、現タイピストが /aidlc-intent-save スキルで作業を保存・マージし、次のタイピストが自分のマシンで /aidlc-intent-continue で引き継ぎます。
試して撤退したもの
- VS Code Live Share: タイピスト交代のスイッチングコストを下げる狙いで試しましたが、ターミナル共有はできても接続環境によって表示が崩れ、肝心の Claude Code 拡張機能自体は Live Share で共有できなかったため断念しました
- タイマーの Claude Code スキル化: タイピスト交代を時間で促すスキルを試作したものの、時間ベースで AI セッションに割り込む仕組みが安定せず、一旦撤退。今は Google Meet のタイマー機能で運用しています
バットマン
『モブプログラミング・ベストプラクティス』に登場する「バットマン」(モブの外で外部からの問い合わせや割り込みに対応するメンバー)に倣い、その日の障害対応当番はタイピストに入れない運用にしています。データ基盤の障害対応はアラート監視と並行処理が必要で、モブに入ると集中を妨げるためです。
未解決の課題: スイッチングコスト
『モブプログラミング・ベストプラクティス』では 10 分ごとの交代が目安として紹介されていますが、DRE では現状 30 分が限界です。AI-DLC を始めた当初は 1 時間以上かかっていたのを、保存・再開処理の高速化や Google Meet のタイマーで短縮してきました。それでも、各メンバーが自分のマシンで作業するスタイルでは、保存・再開を速くしても、セッションを次の人のマシンに同期し直すスイッチングコストが残ります。10 分にはまだ遠いのが現状で、ここはリモートモブの構成上の制約として残っています。
7. 3 ヶ月の数字
AI-DLC を運用してみて、何が数字で変わったかを見ていきます。
計測の方針
2025 年 10 月〜 2026 年 4 月の PR を集計しました(4 月は 4/24 時点)。対象は、DREチームのメンバー(5〜6 名程度)が author の PR に限定しています。なお、ドキュメント中心の Workspace リポは /aidlc-intent-save で作られる即マージ PR が多く数字を歪めるため、集計はコードリポジトリのみにしています。また、他チーム調整が必要で構造的に長い PR は、上位 5% を外れ値として除外しています。
Intent 完了数
一番わかりやすい変化は、Intent 単位で開発を進められるようになったことです。
| 月 | 完了 Intent | ドキュメント成果物 |
|---|---|---|
| 2026-02 | 0(初月、進行中 1) | 60 |
| 2026-03 | 14 | 263 |
| 2026-04(4/24 時点) | 17 | 215 |
2 月は AI-DLC 導入初月で Intent の完了は 3 月にずれ込みました。3 月は 14 件完了、ドキュメントは 263 ファイルが積み上がりました。4 月は月途中(4/24 時点)で既に 17 件の Intent が完了しています。
PR 数
コードリポジトリのマージ済み PR 数(DRE メンバー author 分)です。
| 月 | コードリポ PR |
|---|---|
| 2025-11 | 36 |
| 2025-12 | 24 |
| 2026-01 | 43 |
| 2026-02 | 41 |
| 2026-03 | 74 |
| 2026-04(4/24 時点) | 58 |
1 日 3 ~ 4 時間をモブに充てているので、「モブで時間を使っている分、実装量は減るのでは?」という懸念もありましたが、少なくとも PR 数の面では減っていません。2026-03 で 74 件、4 月は月途中で既に 58 件のペースです。
PR サイクルタイム
DRE メンバーの PR サイクルタイム(作成〜マージ)です。外れ値除外後の値です。
| 月 | PR 数 | 中央値 | P90 |
|---|---|---|---|
| 2025-10 | 19 | 1.5h | 64.9h |
| 2025-11 | 36 | 10.6h | 104.7h |
| 2025-12 | 24 | 21.2h | 94.5h |
| 2026-01 | 43 | 2.1h | 89.1h |
| 2026-02 | 41 | 6.5h | 137.5h |
| 2026-03 | 74 | 2.6h | 96.5h |
| 2026-04(4/24 時点) | 58 | 2.2h | 89.6h |

月ごとのばらつきが大きく、AI-DLC 導入前後で劇的な改善があるとは言いにくい数字です。ただ、モブで 1 日 3 ~ 4 時間を使いつつ中央値 2〜3 時間台で安定しているので、モブによる時間投入に見合う速度は維持できているとは言えそうです。
注記
この期間の数字を AI-DLC の効果だけで説明するのは慎重にしたいところです。大型案件の時期的な偏りや、メンバーの稼働割合など、他の要因も混ざっています。
それでも、Intent 単位で開発を進める仕組みが 2 月から稼働し、3 月に 14 件の Intent 完了まで回せるようになったのは定量的な変化です。PR サイクルタイムの劇的改善は見えていませんが、モブで使う時間分の生産性ロスが起きていない点は、少なくともマイナスの兆候は出ていないと言えます。
何が効いていそうか(仮説)
PR サイクルタイムが変わっていない一方で Intent 完了数は増えている、という組み合わせから、いくつか仮説を立てられます(断定はできません)。
- WIP の削減: 少数の Intent にチーム全員が集中することで、リードタイムのばらつきが抑えられている可能性
- レビュー待ちの削減: モブで合意してから PR を作るので、PR 段階での非同期レビュー待ちが実質なくなっている(中央値を押し下げる方向)
- 外部依存が P90 を支配: P90 は 60〜140h 台で大きく変わっていません。他チームとの調整や権限待ちで止まる PR が混ざっているためと思われ、ここは AI-DLC 単独では改善しにくい部分
記事執筆時点での仮説として記録しておきます。
8. やれていないこと
3 ヶ月で骨格はできた感覚がありますが、まだうまく回せていない領域もあります。
- Operations フェーズ: DRE では
/aidlc-ops-incidentという障害対応スキルに留まっています。chanyou さんの記事で紹介されている Operations ワークフローを取り込むのが次のステップです - ハーネスエンジニアリング寄りの自動化: コードレビューはモブで全員でやっていますが、AI にコードをレビューさせる仕組み、Claude Code の Hooks / Agents の活用、AI 出力の評価ループなど、人間介入を減らす方向(いわゆるハーネスエンジニアリング)の仕組みはまだ薄いです。モブの検証密度は保ちつつ、自動化できる部分はそちらに寄せていきたいと考えています
本記事で触れなかった工夫
本記事は Inception と Construction フェーズの実装に絞ったため、以下のような工夫は紙面の都合で触れていません。続編で書く予定です。
- 多角的レビュー: コンテキスト分離型のサブエージェントで Inception / Construction 成果物をレビューする仕組み
- Knowledge Base 体系: Intent 横断の仕様・運用ノウハウを
knowledge-base/に蓄積し、Intent 完了時に差分提案するルール - 他チームとの擦り合わせルールの統合: 連携する別チームとの合意事項を AI-DLC ワークフローに組み込み、PR 差分の自動準拠レビューも用意
- 効果計測・導入促進: 月次効果計測レポートの自動生成と GitHub Discussions 投稿、社内全体の AI-DLC 導入状況レポート
- 運用ガードレール: 本番環境への破壊的操作を一律禁止するルール、bash コマンド実行規約
9. おわりに
3 ヶ月運用して現時点で落ち着いている構成を書き残しました。完成形ではないですが、この方向で続けるメリットはあると感じています。
公式ドキュメントには書かれていない実装の隙間を埋める例として、同じようにデータチームで AI-DLC を運用している方の参考になれば嬉しいです。
参考
- AI-Driven Development Life Cycle: Reimagining Software Engineering — AI-DLC の理念を紹介した AWS DevOps Blog
- AI-DLC Method Definition(Raja SP, AWS)— https://prod.d13rzhkk8cj2z0.amplifyapp.com/ — 本記事で引用した "Human oversight as loss function" 等の出典
- awslabs/aidlc-workflows — AI-DLC ワークフローの原典リポジトリ(MIT-0)
- Building with AI-DLC using Amazon Q Developer — Amazon Q Developer を使った実践ガイド
- マーク・パール『モブプログラミング・ベストプラクティス — ソフトウェアの品質と生産性をチームで高める』オライリー・ジャパン
タイミーのデータエンジニアリング部 DRE G では、こうしたデータ基盤の構築と AI-DLC の運用に取り組んでいます。興味がある方は、以下よりプロダクト採用サイトをご覧いただけますので、ぜひカジュアル面談などお申込みください!