Timee Product Team Blog

タイミー開発者ブログ

Real-World Product Deployment of Adaptive Push Notification Scheduling on Smartphones を読んでみた

株式会社タイミーでデータサイエンティストをしている渡邉です。

タイミーでは、スマートフォンへのプッシュ通知を利用してタイミーを利用されているワーカーの方にキャンペーン情報やおすすめのお仕事を通知しています。通知した情報をワーカーの方が開封することで初めて詳細な情報を確認することができるのですが、タイミーのアプリ以外のアプリでもプッシュ通知を利用されていると、様々なアプリから日々大量の通知を受け取っているという状況が発生しているかと思います。 このような状況下では、ワーカーの方々が重要な情報を見逃したり、通知の頻度が多すぎてストレスを感じたりする可能性があります。そのため、より効果的でユーザーフレンドリーな通知システムの構築が必要だと考えています。

そんな中でこの問題について有効と思われる手段を提案されている論文 「Real-World Product Deployment of Adaptive Push Notification Scheduling on Smartphones」[1] を見つけたので、本ブログではこの論文の内容を紹介したいと思います。

論文の概要

本論文では、プッシュ通知技術のアプローチである「適応型通知スケジューリング」について詳細に報告しています。慶應大学と Yahoo! JAPAN が実施した大規模研究(382,518人のユーザー、28日間)を通じて、この新しいアプローチの仕組みとその効果が検証されました。 まず従来のプッシュ通知システムの問題点を明らかにし、それらを解決するための適応型通知スケジューリングの手法を提案しています。この手法は、ユーザーの行動パターンを学習し、最適なタイミングで通知を配信することで、通知の効果を大幅に向上させることを目指しています。 システムの設計から実装、そして大規模な実験結果までが詳細に記述されており、この新しいアプローチがユーザーエンゲージメントにどのような影響を与えるかを明らかにしています。さらに、この技術の実用化に向けた課題や今後の展望についても議論されています。

従来のプッシュ通知手法の問題点

従来のプッシュ通知システムには、以下のような問題点があると述べられています。

  1. ユーザーの状況を考慮しない一方的な通知配信

    ユーザーが何をしているかに関係なく通知を送信するため、作業の中断や集中力の低下につながる可能性がある。

  2. 頻繁な割り込みによるユーザーの生産性低下とストレス増加

    頻繁に作業を中断されることで、ユーザーにストレスや不満を与える可能性がある。

  3. 通知の無視や設定オフにつながるユーザーの疲弊

    インタラプション過負荷の状態になると、ユーザーは通知を無視したり、通知設定をオフにしたりする可能性がある。これは、プッシュ通知本来の目的である情報伝達を阻害する要因となる。

  4. クリック率や反応時間の低下によるマーケティング効果の減少

    通知が頻繁に送られてくることで、ユーザーは通知に対して鈍感になり、クリック率や反応時間の低下につながる可能性がある。

これらの問題は、ユーザーエンゲージメントの低下と、プラットフォームの価値低下につながる危険性があります。

適応型通知スケジューリングの概要

適応型通知スケジューリングの大事なポイントは、ユーザーの「ブレークポイント」を検出することです。ブレークポイントとは、ユーザーが一つのタスクを終え、次のタスクに移る瞬間のことを指します。この瞬間は、ユーザーの認知負荷が低く、新しい情報を受け取るのに適しているとされています。 本論文では、スマートフォンのセンサーデータと機械学習を組み合わせて、リアルタイムでブレークポイントを検出するシステムについて述べられています。このシステムは、ユーザーの活動状態、時間帯、デバイスの状態などの多様なコンテキスト情報を活用しています。 具体的には、474 の特徴量を用いた分類モデルを構築し、ユーザーの状態をリアルタイムで評価します。

主な特徴量には以下が含まれます。

  • 時間帯情報
  • デバイスの状態(充電状況、音量設定など)
  • ユーザーの活動状態(Google Activity Recognitionを使用)
  • アプリケーションの使用状況

モデルは線形回帰をもとにしており、日々のユーザーデータを用いて更新されます。また、平日と週末で異なる行動パターンに対応するため、コンテキストに応じた重み付けを導入しています。 そして、ブレークポイントが検出されるまで通知の配信を遅延させ、最適なタイミングで通知を表示します。

システムアーキテクチャ

システムは主にクライアント側とサーバー側のコンポーネントで構成されています。

クライアント側:

  • センサーデータの収集
  • 特徴抽出
  • リアルタイムのブレークポイント検出
  • 通知の遅延と表示

サーバー側:

  • ログデータの収集と分析
  • 日次モデルの更新
  • 新しいモデルのクライアントへの配信

このアーキテクチャにより、ユーザーの行動パターンを日々学習し、モデルを継続的に改善することが可能となります。

実験と結果

382,518人の Android 利用ユーザーを対象に実験を実施しています。実験では、ユーザーを Test 群と Control 群にランダムに分割し、Test 群には新しい適応型通知システムを適用し、Control 群には従来の通知システムを使用しています。

主な結果は以下の通りです。

  1. クリック率の平均が 23.3% 向上(最大 41.6%)

    適応型通知スケジューリングを導入した結果、ユーザーのクリック率は平均で 23.3% 向上し、最大で 41.6% の向上率が確認されました。

  2. ターゲット通知のクリック率の平均が 30.6% 向上(最大 60.7%)

    特に、ユーザーの興味関心にもとづいてパーソナライズされたコンテンツを含むターゲット通知では、平均 30.6%、最大 60.7% と、より高いクリック率の向上が見られました。

  3. 一般通知のクリック率の平均が 11.1% 向上(最大 42.9%)

    一方、すべてのユーザーに同じ内容が配信される一般通知でも、平均 11.1%、最大 42.9% のクリック率向上が確認されました。

  4. 通知配信後 120 秒以内のクリック率が 2.6〜2.86 倍に向上

    適応型通知スケジューリングでは、通知配信後 120 秒以内のクリック率が、大幅に向上しました。

    • 一般的な通知の場合:クリック率が2.60倍に向上 (実験群のクリック率 / 対照群のクリック率)
    • ターゲット通知の場合:クリック率が2.86倍に向上 (実験群のクリック率 / 対照群のクリック率)

    これらの結果はユーザーのブレークポイントに合わせて通知が配信されることで、ユーザーの関心を高め、即座に反応しやすくなったためと考えられます。特にターゲット通知(パーソナライズされた内容)の場合、より大きな効果が見られました。この結果は、適切なタイミングとパーソナライズされた内容の組み合わせが、ユーザーエンゲージメントを大幅に向上させる可能性を示唆しています。

  5. 速報ニュースが多い日でも高いパフォーマンスを維持

    速報ニュースが多い日でも、適応型通知スケジューリングは高いパフォーマンスを維持しました。これは、ユーザーのブレークポイント以外のタイミングで配信される速報ニュースが多い日でも、適応型通知は、ユーザーの適切なタイミングで配信されるため、クリック率への影響が少なかったと考えられます。

これらの結果は、適応型通知スケジューリングの有効性を強く示唆しています。

考察

実験結果から、以下の点が考察されます。

  1. ユーザーの状況を考慮した通知は、大幅にエンゲージメントを向上させる
  2. パーソナライズされた内容(ターゲット通知)と適切なタイミングの組み合わせが最も効果的
  3. 適応型システムは、緊急時の通知と日常的な通知のバランスを効果的に管理できる
  4. ユーザーの即時反応性の向上は、情報のタイムリーな伝達に有効

これらの知見は、マッチングプラットフォームにおける通知戦略の最適化に大きく寄与すると考えられます。

今後の課題と展望

今後の主な課題と展望として、以下が挙げられています。

  1. さらなるパーソナライゼーションの追求(通知内容と配信タイミングの最適化)
  2. クロスプラットフォーム対応(iOS, ウェブなど)
  3. リアルタイム処理の効率化

これらの課題に取り組むことで、より効果的でユーザーフレンドリーな通知システムの実現が期待されます。

まとめ

適応型通知スケジューリングは、ユーザーの状態を考慮したアプローチです。大規模実験の結果は、この手法が従来の問題点を大きく改善し、ユーザーエンゲージメントを向上させることを示しています。 マッチングプラットフォームにおいても、求職者と求人情報のマッチング精度の向上、ユーザー満足度の向上、そしてプラットフォーム全体の価値向上が期待できます。今後もこのような論文から得られた知見をもとに、タイミーアプリの継続的な改善を重ね、ユーザーとビジネスの双方に価値をもたらすことに貢献していきたいと考えています。

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参考文献

[1] : Okoshi, T., Tsubouchi, K., & Tokuda, H. (2019). Real-World Product Deployment of Adaptive Push Notification Scheduling on Smartphones. In Proceedings of the 25th ACM SIGKDD International Conference on Knowledge Discovery & Data Mining (KDD ’19) (pp. 2792-2800), DOI: 10.1145/3292500.3330732 (2019)