イベント概要
12月17日(火)にpmconf 2024のサイドイベントとして「Re:cycle〜pmconf 2024編〜」を開催しました! このイベントはReject Conライクなイベントとして通過しなかったプロポーザルをアップデートして発表することをコンセプトにIVRyさん、DMMさんとの共催で開催しました。
今回はこの勉強会からタイミーのプロダクトマネージャーである大嶋さん(@ta0o_o0821)の発表を書き起こしイベントレポート形式でお伝えします。
オープニング
お品書き
自己紹介
はい、それでは私のほうから15分ほどお時間をいただいて、「Go See! で見つけるプロダクト開発の突破口とその実践法」というテーマでお話しします。まずは自己紹介から入ります。
私は大嶋泰斗と申します。株式会社タイミーでプロダクトマネージャーをしています。入社は昨年の6月頃で、今ちょうど1年半ほどPdMとして関わっているところです。
バックグラウンドや職歴についてお伝えすると、これまでLINE、リクルート、そして現在はタイミーと、ずっとtoCサービスに携わってきました。個人的に、身近なユーザーや想像しやすい人たちの幸せや喜びにつながる体験をつくることが好きで、学生時代のインターンも含め、一貫してtoC領域でやってきました。キャリアの中ではデザイナーをしていた時期もありますが、基本的にはプロダクトマネージャーとして積み上げてきた形です。趣味はカメラ、漫画、料理などです。
会社紹介
会社紹介は簡単にしておきます。タイミーは、「働きたい時間」と「働いてほしい時間」をマッチングするスキマバイトサービスです。一般的な求人媒体型サービスと異なり、実際の稼働や労務管理、企業への支払いまでプロダクト上で完結します。単にマッチングで終わらず、その後のワーカー行動や稼働データ、時給とマッチング率の相関など、多面的なデータ分析や改善が可能である点が面白いところです。
データだけに頼った意思決定の失敗
では本題に入りましょう。先ほど別のセッションで「徹底的にやる」という話が出ていましたが、私がお伝えしたいのは「Go See!」、すなわち現場に足を運んで顧客について学び、プロダクト開発を前進させるアプローチです。
いきなりですが「顧客を完全に理解している」という方はなかなかいないと思います。データ分析が一般的となり、ファネル改善や需要予測、バナー最適化などはデータドリブンで効果を出しやすい領域です。しかし、アナログな現場や複雑なオペレーションが絡むと、データ分析だけでは行き詰まってしまうことがあります。
例として、マクドナルドの「サラダマック」を挙げました。当時、健康志向が高まっているデータから発想された商品ですが、実際の顧客はマクドナルドに来たらビッグマックやポテトといったジャンクなものを求めることが多かったため、売れ行きは伸びず撤退する結果となりました。データは有用ですが、それだけでは顧客心理を完全には掴めないケースがあるわけです。
出勤簿プロジェクト
このような状況はタイミーでも起きました。その一つが「出勤簿プロジェクト」です。
物流企業の倉庫などでは1日に50~100人規模でワーカーが来ることがあります。誰がどんなスキルで、何回目の勤務なのか、持ち物は何が必要かなどを把握し、スムーズに受け入れたい。
しかし従来は情報が断片的で、それらを手作業で集約し、1日30分ほど準備に時間をかけていました。この「受け入れコスト」が利用拡大のボトルネックになっていたのです。
一見すると、管理画面で情報をまとめれば解決しそうに思えます。しかし社内外でヒアリングをすると、「現場にPCを持ち込めない」「自作ツールを使いこなしている拠点がある」「拠点ごとにオペレーションが異なる」「そもそも1日の定義が違う拠点もある」といった複雑性が次々と判明しました。「管理画面で見せればいいのか? 印刷したほうがいいのか?」といった基本的な方針すら分からなくなり、ソリューションが見えなくなってしまったのです。
Go see で得られたインサイト
そこで活用したのが「Go See!」、つまり現場へ足を運んで直接観察することです。
東京、名古屋、栃木、群馬など各地の物流倉庫を回り、ワーカー受け入れの様子や顧客とのやりとり、働く現場を半日から1日かけて観察しました。
センター長、人事部長、現場責任者、受け入れ担当者などにも直接ヒアリングを行い、実態を把握します。
その結果わかったことが、やはり「紙が必須」という点でした。
拠点によっては様々な派遣媒体からワーカーを呼び、テーブル上に各媒体の出勤簿を並べて即時にメモを書き込む必要があります。
ロッカーキー番号や体調不良、直前キャンセルなど、想定外の事態が常に起きる中、PCを開いて操作する余裕はありません。紙ならその場で書き込みが可能で、柔軟な対応ができるのです。
また、とある別のPoC検証をしていた拠点はなかなか利用に至っておらず、ヒアリングしてみるとCSVの列の追加や削除の作業をなくしたいとか
フィルターする手間をなくしたいとか、色々なお声をいただきました。
元々30分掛かっていた作業が5分程度で完了する様になったので、それで良いだろうと思ってましたし、何故、5分掛かることで利用に至らないのか理解が出来ていませんでした。
でも、実際に現地で作業しているのを観察してみると色々なことが分かりました。
朝8時から8時45分までの間に、電話対応、他社派遣スタッフへの対応、書類分け、上司の依頼業務、さらには100人規模で来るタイミーワーカーの点呼準備まで、1人でマルチタスクをこなしていました。たとえCSV整理が数分短縮できても、その数分すら大きな負担になるわけです。こうした状況を見なければ「なぜ利用されないのか」が分からなかったでしょう。
小さな一歩で大きな成果を得る
現地訪問をしなければ、未利用の原因は不明なままで、開発は進まず手詰まりになっていた可能性があります。
表面的な対応に終始し、ギャンブル的な改善を繰り返すことになったかもしれません。しかし、実際に現場を見て理解を深めることで、真の課題が発見でき、確かな改善へとつなげることができました。
ここで改めて指摘したいのは、ユーザー行動はあらゆる要因に左右されているということです。
プロダクト上のデータはクリックや検索、閲覧履歴といった動作しか示しませんが、その背後には割引キャンペーンや地域の習慣、友人からのおすすめなど、データ化されない影響要因が無数に存在します。
現地訪問をすることで、そうした背景に目を向けられます。
まとめとして、「Go See!」は小さな手間で大きな成果を得られるアプローチだと言えます。数字やデータでは見落としがちな現場固有の環境や不便さを直接観察することで、プロダクト開発の盲点を補完し、成功へと近づけます。また、チーム全体で顧客理解を共有すれば、その後の開発スピードや質が大幅に向上します。私たちのチームでは、エンジニアやデザイナー、入社直後のメンバーにも必ず現場に行ってもらい、全員が同じ高い顧客解像度を得るようにしています。その結果、スクラム開発でプロダクトオーナーとしての私が手離れできるほど、チーム自律的に開発が進むようになりました。
注意点として、Go See! は定性的アプローチなので、N=1的なバイアスをはらみますし、顧客特有の問題に左右されがちです。
そのため得られたインサイトは、小さなPOCを通じて検証し、さらにデータ分析を組み合わせることで、より確度を高めることが大切です。
最終的なリリース後はデータ分析を最大限活用して、価値の最大化をスピーディに図ることが望ましいでしょう。
以上で、「Go See! で見つけるプロダクト開発の突破口とその実践法」のお話を終わります。
ご清聴、ありがとうございました。